1.任意後見制度とは
高齢化社会が進む中で、「老いて認知症になったらどうしよう」、「自分の財産をどうやって守ったらよいのか」という不安が出てきます。2000年4月に「任意後見制度」が創設されました。新しい成年後見制度の中で、この任意後見制度の新設はもっともその制度化が望まれていたもので、利用のやり方によっては効用の高いものと考えられます。任意後見制度は「第2の遺言」ともいわれています。
★利用法
認知症に備える場合。(ひとり暮らしの方や身寄りのない方が財産管理や療養看護を親族や専門家に委託するなど)
任意後見制度の概要は次のようになっています。
任意後見契約とは、本人が任意後見人に対し、精神障害(認知症、知的障害、精神障害等)により判断能力が不十分な状態における自己の生活(見守り等の身上監護)、療養看護、財産の管理に関する事務の全部または一部について代理権を与える委任契約で、任意後見監督人が選任されたときから契約の効力が生ずる特約をしたものです。
任意後見契約の方式は、適法かつ有効な契約が締結することを担保するため、公正証書によることが必要です。
2.任意後見契約の利用形態
ア 契約移行型(おすすめ)
財産管理の委任契約と任意後見契約を同時に締結することにより、契約締結時から、本人の判断能力低下前から受任者に財産管理等の事務を委託します。
本人の判断能力低下後は、委任契約を終了し、任意後見契約により、受任者に事務処理を続けてもらう契約形態です。
※委任契約締結後、銀行などで代理人として手続をする際には、公正証書を持参すると証明になります。
さらに死後の事務委任契約をあわせて締結しておけば、本人死亡後の医療費や税金の支払、葬儀・埋葬・供養の手続もまかせることができますので、身寄りのない方にはおすすめです。
委任契約から任意後見契約への移行は、本人の判断能力が低下した段階で、受任者等の申立により任意後見監督人を選任することにより行われます。
契約移行型を当事務所は一番おすすめいたします。
イ 即時効力型
すでに軽度の認知症、知的障害、精神障害等の状態にある補助制度の対象者であり、任意後見契約を締結後直ちに本人または受任者の申立により任意後見監督人を選任することにより、当初から任意後見人による保護を受けようとする契約形態です。
このように既に判断能力が不十分な状態にある本人が法定後見による保護よりも任意後見による保護を選択する場合は、契約締結後直ちに契約の効力を発生させることを前提にした上で、本人自ら任意後見契約を締結することができます。
ウ 将来効力型
将来の判断能力の低下に備えて、任意後見契約を締結しておき、判断能力が低下した時点で任意後見監督人を選任して、任意後見人による保護を受けようとする契約形態です。
この契約形態の場合は、法文どおり、任意後見監督人が選任された時から契約の効力が生ずる旨の条項を公正証書に記載することになります。
3.任意後見契約の3点セットとは
任意後見契約は、本人の判断能力が低下した後、任意後見監督人が選任されたときからスタートします。
したがって、判断能力が低下する前の後見事務に関しては、任意代理の委任契約を締結することにより、本人の財産管理や療養監護を行うことになります。
通常、「財産管理の委任契約」を任意後見契約と同時に締結することにより、判断能力のある現在から、判断能力低下後まで、本人をサポートすることができます。
財産管理の委任契約は、任意後見監督人が選任されたときには、終了する旨を定めておきます。
また、あわせて、「死後の事務委任契約」を締結しておくこともお勧めいたします。これは、本人死亡後に葬儀社への支払やお寺のお布施の支払などの事務を委任するものです。
「財産管理の委任契約」、「任意後見契約」、「死後の事務委任契約」の3点セットで任意後見契約は万全なものとなります。さらに公正証書遺言までセットにすれば、完璧です。
4.任意後見契約の締結とは
任意後見契約の方式は、適法かつ有効な契約が締結することを担保するため、公正証書によることが必要です。逆に言うと、公正証書にしなければ、任意後見契約は成立しないということです。
任意後見契約の締結に際しては、通常は本人と任意後見受任者の双方が公証役場に足を運ぶのですが、どうしても足を運ぶことができない場合は、公証人に出張してもらい、締結することもできます。
もちろん内容に関することは事前に打合せをしておく必要があります。
しかし、打合せに関しては、本人と任意後見受任者の双方が来なければいけないわけではありません。
したがって、基本的に本人と公証人が顔を合わせるのは契約締結時の1回限りが多いです。その点はご安心ください。
5.任意後見契約の内容とは
任意後見契約では、精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により、判断能力が不十分な状況における財産管理または療養看護に関する事務について、任意後見人に代理権を付与する委任契約です。
したがって、「財産管理」と「療養看護」が主となります。
財産管理は、預金の管理、不動産の管理、相続・保険・証書類の管理などです。
療養看護は、介護契約、施設入所契約、医療契約などです。
実務上、任意後見契約書にこれらの範囲を特定して作成いたします。したがって、代理権を付与する項目を事前に考えて選択しておく必要があります。
6.親亡き後の本人保護のために任意後見制度を活用する方法
知的障害者、精神障害者の親亡き後(親の老化、死亡)の保護のためには次のような活用方法が考えられます。
1)子本人(知的障害者、精神障害者)は、意思能力があれば、自ら任意後見契約を締結することができ、親亡き後に任意後見受任者が任意後見監督人の選任を申し立てることにより、任意後見人の保護を受けることができます。
未成年の子も、親権者の同意を得て、自ら任意後見契約を締結する事ができます。また、子本人に意思能力がない場合は、子本人が未成年の間に親が親権に基づいて子に代わって任意後見契約を締結できます。
2)親自身の老後の財産管理等に関して、親が自己を当事者とする任意後見契約を締結するとともに、個々の事案に応じて遺言執行者と遺産の管理方法を指定する遺言、親の死後の財産管理を受託者に委託する信託、親の死後の子の介護等を第三者に委託する準委任契約等を組み合わせることにより、親の老後、死後の子の保護及びそのための財産管理などを予め定めておくことも可能です。
ただし、子が成年で意思能力がない場合は、法定後見制度を利用してください。
※法定後見制度の概要とは参照